「もう回復の見込みがない」と医師が判断しても、人工呼吸器や心肺蘇生(CPR)など侵襲的な延命治療が実施されるケースは少なくありません。
では、こうした“無益治療”にどれだけの公費(=私たちの税金)が投じられているのでしょうか。最新統計に手を掛け、シンプルな“試算シート”を作ってみました。
ステップ① 基礎データを集める
| 項目 | 値 | ソース |
|---|---|---|
| 年間死亡数(2024年) | 1,605,298人 | 厚労省統計1 |
| うち75歳以上の死亡割合 | 約80%(≒128万人) | 同上1 |
| 死亡前1年間の平均医療+介護費 | 約300万円/人 | 東京都健康長寿医療C研2 |
| 死亡時に人工呼吸器を装着している割合 | 約20% | 日医総研WP1443 |
| 後期高齢者医療制度の公費負担率 | 約50% | 厚労省資料4 |
ステップ② “ざっくり”計算してみる
終末期医療費総額:1,284,000人 × 300万円 ≒ 3.85兆円/年
このうち“過度な延命”と見なせる割合:侵襲的治療施行率を根拠に20〜30%と設定 → 0.77〜1.16兆円
税金で賄われている分:×公費50% → 約0.4〜0.6兆円(≒4,000〜6,000億円)/年
国家予算と比べるとどのくらい?
2025年度当初予算ベースで見ると、科学技術振興費(文科省)約3,000億円や防衛装備品の研究開発費約6,000億円と同じオーダー。
つまり、延命治療に使われる税金は「国の研究開発投資を1本まるごと」賄えるほどの規模感になります。
数字を読むうえでの注意点
- “過度/無益”の線引きは極めて主観的。ここでは人工呼吸器・CPR・ICU死など侵襲的介入を目安に推定しています。
- 平均医療費300万円は福島県相馬市のレセプト解析値。都市部の大病院ではさらに高い可能性あり。
- 介護保険サービス費や家族の自己負担は含めていません。
- 死亡前「1年間」を対象にしましたが、最後の1か月だけに絞ると金額・比率とも小さくなります。
おわりに
「延命治療の是非」は倫理だけでなく、社会保障の持続可能性にも直結します。
数字を可視化することで、どう生き、どう死ぬかという人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)の議論が、より具体的なものになるはずです。
出典
1. 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
2. 東京都健康長寿医療センター研究所「死亡前1年間にかかった医療費と介護費の総額は?」
3. 日本医師会総研 WP No.144「病院における終末期医療の実態」
4. 厚生労働省「後期高齢者医療制度の財源構成」
