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社内の人間も信じない? 現代最強の防御壁『ゼロトラスト』入門

はじめに:「社内ネットワークなら安全」という神話の崩壊

「ウチの会社はファイアウォールがあるから大丈夫」
「社内のWi-Fiに繋いでいるんだから、変な人はいないはず」

もしあなたの会社がまだそう考えているなら、それは少し危険かもしれません。

かつて、セキュリティの基本は「外の敵は防ぎ、中の味方は信じる」という考え方でした。しかし、テレワークで社員がカフェからアクセスしたり、クラウドサービスで重要なデータを社外に保存したりする現代において、「内」と「外」の境界線は消え失せてしまいました。

そこで生まれた新しい常識が、今回解説する『ゼロトラスト(Zero Trust)』です。

直訳すると「信頼ゼロ」。なんだか冷たい言葉に聞こえますが、これこそが今の時代に情報を守る最強の盾なのです。一体どういう仕組みなのか、分かりやすく図解していきましょう。

従来型セキュリティ:「お城と堀」のモデル

これまでのセキュリティ(境界型防御)は、「お城」と同じ仕組みでした。

  • 仕組み: お城の周りに高い壁と深い堀を作り、入り口の門番(ファイアウォール)が敵の侵入を防ぎます。
  • ルール: 「門を一歩入れば、そこは安全地帯」。一度IDカードを見せて中に入った人は、城内のどの部屋にも自由に行き来でき、誰も疑いません。
  • 弱点: もし、スパイが掃除係に変装して一度門を突破したら? 中にはもう監視役がいないので、宝物庫(データ)まで一直線です。また、社員が城の外(カフェや自宅)で仕事をするとき、この壁は守ってくれません。

ゼロトラスト:「空港の検問」モデル

対してゼロトラストは、「すべての扉にガードマンがいる」状態です。

  • 仕組み: 「社内からのアクセスだから」「社長だから」といった特別扱いは一切ありません。「誰も信用しない(Zero Trust)」を前提にします。
  • ルール:
    • ファイルを開くとき
    • 別の部署のフォルダにアクセスするとき
    • クラウド上のメールを見るとく

    これらすべてのタイミングで、「あなたは本当に本人ですか?」「そのパソコンはウイルス感染していませんか?」と、しつこいくらいに毎回チェック(認証)を行います。

  • 強み: 仮にIDが盗まれて侵入されても、次の扉を開けるにはまたチェックが必要なので、被害を最小限に食い止められます。また、インターネットさえあれば、どこにいても同じ強度で守られます。

なぜ今、ゼロトラストが必要なのか?

理由は大きく2つあります。

1. 「守るべきもの」が社外に出たから

昔はデータは「社内のサーバー室」にありましたが、今は「クラウド(Google DriveやMicrosoft 365など)」にあります。もはや守るべきお城(物理的な境界線)は存在しないのです。

2. 攻撃の手口が巧妙になったから

最近のハッカーは、壁を壊して侵入するのではなく、正規の社員のIDパスワードを盗んで「堂々と正面から」入ってきます。こうなると、従来のお城モデルでは防ぎようがありません。

まとめ:「疑うこと」は「守ること」

ゼロトラストは、社員を監視して窮屈にさせることが目的ではありません。

「私はあなたを信じているけれど、サイバー空間にはなりすましが多いから、念のために毎回確認させてね」

このように、「常に確認し続ける」ことこそが、デジタル社会における本当の優しさであり、安全なのです。
パスワードだけでなく、指紋認証やスマホ通知を使った「多要素認証」が求められるのも、このゼロトラストの流れの一つと言えるでしょう。