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日本中の住居の屋根を太陽光パネルにしたら、電力の何%をまかなえる?

日本中の「住まいの屋根」を太陽光にしたら、電力の何%をまかなえる?――最新研究と統計から現実解を探る

結論から言うと、住居の屋根だけを対象にした場合でも、前提の置き方しだいで全国電力需要のおよそ20〜50%を賄えるポテンシャルがあります。現時点の日本の屋根事情(戸建て比率、標準的な設置容量、日射量)を置きにいくと20〜30%台が現実解、屋根いっぱいに「攻めて」載せると30〜50%が見えてくる、というイメージです。

まず「分母」を確認:日本の年間電力需要

電力の「分母」は、国全体の年間需要です。送電端ベースの最新公表では、2023年度:841TWh(速報)、2024年度見通し:846TWhとされています。この記事では丸めて約846TWhを分母に使います。
出所:電力広域的運営推進機関(OCCTO)「電力需給見通し」

屋根の枚数=戸数×戸建て比率(ざっくりの「分子」の土台)

単純化のため、設置対象となる「屋根のある住まい」≒約3,000万戸と置きます(空き家や日照不利、歴史的景観エリア等は後段で補正します)。

日本の屋根の「発電効率」:1kWから年間どれだけ発電する?

太陽光は場所や設置条件で出力が変わります。日本の広域平均では、1kWあたり年間およそ1,000〜1,200kWhが目安。IEA-PVPS 日本報告1,000〜1,100kWh/kW/年、学術報告(国立環境研究所など)では約1,197kWh/kW/年の実績値が示されています。この記事では中間値として1,150kWh/kW/年を採用します。

1戸あたり何kW載るの?――「標準」と「攻め」の2段階で整理

日本の実勢として、住宅用の平均的な導入規模は4〜5kW台が多く、レビュー研究でも平均4〜4.6kWのレンジが報告されています。
一方、屋根全面を有効活用し南向きに最適化すれば8〜10kW、屋根形状や新築での最適設計なら〜12kW級も技術的には可能です。
参照:MDPI Energies「住宅用PVシステムのレビュー」(2024)

シナリオ別の発電量とカバー率(全国合計)

前提:対象戸数3,000万戸、年間発電1,150kWh/kW、分母846TWh

1戸の設置容量 1戸の年間発電 全国合計(TWh) 需要カバー率
4kW(現実寄り) 約4.6MWh 約138TWh 約16%
6kW(現実寄り) 約6.9MWh 約207TWh 約25%
8kW(攻め) 約9.2MWh 約276TWh 約33%
10kW(攻め) 約11.5MWh 約345TWh 約41%
12kW(上限寄り) 約13.8MWh 約414TWh 約49%

「屋根の何割が本当に使えるの?」という現実補正

現実には屋根の方位・影・積雪・強度などの制約が効きます。
2025年の研究(東北大学プレスリリース)では、屋根の70%に20%効率のパネルを敷設すれば年1,017TWhを屋根太陽光だけで賄える可能性がある、と示されました。さらにEV蓄電を組み合わせると85%まで供給可能になるという推計もあります。

地域差・季節差

  • 地域差:九州・四国・東海は発電量が大きく、北海道や東北は雪や日照条件で下振れ。ただしIEA-PVPSのレンジ(1,000〜1,100kWh/kW/年)は全国実績に基づくため平均値として妥当。
  • 季節差:夏に発電が偏り、冷房需要と相性が良い反面、冬夕方の電力ボトルネックは残る。

まとめ:住まいの屋根だけでも電力の柱になりうる

標準的な設置規模(4〜6kW/戸)で約20〜25%、屋根を最大限に活用して8〜12kWにすれば30〜50%
さらに蓄電(家庭用やEV)・非住宅屋根・駐車場上屋を組み合わせれば、屋根太陽光は日本の電力の主力として十分に成り立ちます。


参考:
OCCTO「電力需給見通し」 /
総務省統計局「国勢調査」 /
国土交通省「住宅・土地統計調査」 /
IEA-PVPS 日本報告 /
MDPI Energies(2024レビュー) /
東北大学プレスリリース